カナリアが さえずりを 止めるとき
When the Canaries Stop Chirping
会 場
広島市立大学芸術学部CA+Tラボ
Alternative Space CORE
会 期
2020.11.6(金)-11.15(日)
12:00-18:00
お問合せ先
現代表現研究室(082-830-1635)
展示概要
広島市立大学が開学して四半世紀、情報化の波と共に世界は大きな変化を遂げてきました。しかし、男性主導社会で作られた旧来の価値観や構造を、時代の変化にあわせて転換できたとは言えません。昨年の「あいちトリエンナーレ」では、作家の性別を同数にすることに強い反発が起こったり、時代の先端を走っていた男性美術関係者のハラスメントが相次いだりと、美術業界でも男性優位の構造であることが明るみになりました。
時を同じくして、本学芸術学部でも、二度目となる教授のハラスメント行為による懲戒処分が発表されました。教員の不適切な行為は、教員と学生間での不均衡なジェンダー問題や、師弟関係による権力の非対称性、密室的な指導環境など、これまで美術教育の特殊性ゆえに忌避されてきた構造上の問題を浮き彫りにしました。
声をあげた被害者は、ハラスメントは人格や尊厳を侵害する人権問題であると断罪しながらも、一方で、「私は自分が本当に正しいことをしているのか不安です」と自身に問います。自らの行動に不安を感じなければならないほど、現状では被害者に対するリスクや負担は大きいと言わざるを得ません。また被害者の抱える不安は、世界中で性差や人種、障害など様々な抑圧を訴える状況を鑑みると、個人の問題ではなく社会に関わる全ての人の問題であると言えます。
アーティストは、小説家のカート・ヴォネガットによって「炭鉱のカナリア」と喩えられてきました。カナリアは炭鉱で有毒ガスを感知すると鳴き止むことから、検知器として使われていたように、不安というガスが噴出する時代に大学で育ったアーティストたちも、目に見えない息苦しさや未知の価値観をいち早く感知し、作品に忍ばせています。流動する社会にとって命綱ともいえるカナリアが、そのさえずりを止めるときが来ないように、私たちは作品に潜む多様な声に耳を傾け、歪んだ社会構造を改めて考察する必要があると考えます。私たちが一つの絶対的な正しさのない世界と共生し、開かれた社会へ近づくために、展示やシンポジウムを通し多様な意見が唱え合える場を探求します。
※このイベントは、特定の個人を攻撃もしくは批判し、名誉や信用を傷つけたり、誹謗中傷したりするものでは決してありません。
また、個人を特定し吹聴するなどの行為は、プライバシーの侵害、名誉毀損罪で処罰される場合がございますのでご注意下さい。
参加アーティスト

《やさしい手》2018
《spare-part》2013


《CLUSTER - Ornamental artifact -》
2013

久保寛子 Hiroko Kubo
1987年広島生まれ。先史芸術や民俗芸術、文化人類学の学説を主なインスピレーションの源とし、近年は生活に身近な素材を用いて農耕や偶像をテーマに作品制作を行う。主な展覧会に「いのち耕す場所−農業がひらくアートの未来」青森県立美術館、青森、2019や、「瀬戸内国際芸術祭2016」小豆島、香川、2016年など。2017年、六甲ミーツアート公募大賞グランプリ受賞。
岸かおる Kaoru Kishi
1956年広島生まれ。主婦の視点で、社会的に弱き立場にある女性のあり方や生き方を問う。また、社会に繋がる問題として国家、イデオロギー、戦争、核開発、環境問題にも取り組む。主な展覧会に「彼女たちは叫ぶ、ささやくーヴァルネラブルな集合体が世界を変える」東京都美術館、東京、2019年や、個展「兆し」Gallery t、東京、2016年など。
友枝望 Nozomi Tomoeda
1977年大阪生まれ。相対性や類似性を手掛かりに、様々な場所や素材に行為を加えて、観察や検証の対象とする作品制作を行う。主な展覧会に「美術館の七燈」広島市現代美術館、広島、2019年や、「Identity XV -curated by Meruro Washida」nca | nichido contemporary art, 東京、2019年、「Wadden tide 2016」ブラヴァンシュク、デンマーク、2016年など。
松田莉奈 Rina Matsuda
1994年広島生まれ。作家自身の父親が起こしたある事件から、いつ誰にでもありえる普遍的な問題をテーマに制作を行う。主な展覧会に「Mutsuda Rina 個展」Komachi Art Place、広島、2016年、「JAMS2044~30年後のケータイ~」18畳の空間 mosaic,gallery・キオクの空箱、2014年など。
《パパ?/Papa?》2017

沖中志帆 Shiho Okinaka
1985年広島生まれ。幼少期から現在に至る過程での習慣や経験に基づく思考の変化を、現象や行動など瞬間的に発生する事象で表現する。主な展覧会に「リアリティを移す」アートギャラリーミヤウチ、広島、2020年や、「広島アートプロジェクト2008 CAMP BERLIN」旧ベルリン市交通局中央整備工場、ベルリン、ドイツ、2008年など。
《Endless 0》2008
広島市立大学芸術資料館蔵

隅田うらら Urara Sumida
1997年広島生まれ。作家自らの身体を主なモチーフとし、3Dプリンターを使った彫刻的表現から、パフォーマンスまで様々な手法で、ショービジネスにおける商品化された美への憧れや自身の持つコンプレックスをテーマに作品制作を行う。主な展覧会に「位置について、」DESIGN FESTA GALLERY WEST、東京、2016など。
《All eyes on me》2019

青原恒沙子 Hisako Aohara
1993年広島生まれ。森や粘菌、星座などをモチーフに、ミクロとマクロのスケールを持ち合わす絵画作品を制作する。主な展覧会に「Media, Human, Landscape」Daegu Art Factory、大邱、韓国、2018年や、「SWING SPRING」ギャラリー桜林、茨城、2018年、個展「遠い風景」gallery G、広島、2016年など。
《もり#2》2018

中川晶子 Shoko Nakagawa
1989年広島生まれ。音声や光など実体のないもの、身近なものを素材に制作。幼少期から今に至るまでの記憶をもとに、原体験や迷信などローカルな感覚の再解釈を試みている。主な展覧会に「IT AIN’T EASY」横川創苑、広島、2019年や、個展「kernel」ギャラリー交差611、広島、2017年など。
《TAMURO》2010

宮内彩帆 Ayaho Miyauchi
1996年広島生まれ。アニメに出てくるようなキャラクターの彫刻/フィギュアの制作を通して、新たな身体表現の地平を探る。主な展覧会に「ワンダーフェスティバル2019[夏]」幕張メッセ国際展示場、東京、2019年や、「パンドラの匣庭」光明寺會舘、広島、2018年など。
《天国の工場で量産された
ストリッパーたち》2019

《ONLINE SMOKE》2020

小松原裕輔 Yusuke Komatsubara
1994年広島生まれ。オブジェクトに隠れる、自然と人間による営為の物語の断片を繋ぎ、知らない記憶を想起させる。主な展覧会に「野生のハナ」三都半島アートプロジェクト、旧出水邸、小豆島、香川、2020年や、個展「アートになるか、あるいは、」広島市立大学芸術資料館、広島、2018年、「Vernissage : Synaesthesia」ヴィーンソヴスキー&ハーバード、ベルリン、ドイツ、2017年など。
小森宥羽 Yu Komori
1996年広島生まれ。誰でもない人や道端に落ちているゴミ、些細な物から刺繍によるドローイングを作り出し、気に留められない小さなモノの存在を問いかける。主な展覧会に「OKUTSU芸術祭」石庭遊園地、岡山、2020年や、「HIROSHIMA 75 Als die Sonne vom Himmel fiel」EISFABLIK、ハノーファー、ドイツ、2020年、「Champon/ちゃんぽん」COURTYARD Marriott Hotel 、ハノーファー、ドイツ、2020年など。
《by strangers and me》2020

程釬 Cheng Qian
1996年上海生まれ。自分自身を起点にして周囲の状況を読み解き、女性やマイノリティーといった弱者の犠牲で作られた繁栄の偽装を作品によって暴き出す。主な展覧会に「Achromic New City」光明寺會舘、広島、2019年など。
《Our Wonderful Society》2020

金山友美 Yumi Kanayama
1999年鞍山生まれ。コミュニケーションのすれ違いや家族のアイデンティティをテーマに、主に自作の人形を使ったコマ撮りアニメーションを制作。主な展覧会に「あんくろにくるニューしてぃ」光明寺會舘、広島、2019年や、「ART in 酒蔵」広島、2019年など。
《食卓》2020

安村日菜子 Hinako Yasumura
2000年広島生まれ。社会問題や物事をフラットに捉え、自身の体験を交えたユーモラスな作品を制作する。主な展覧会に「MULTIPLAY」光明寺會舘、広島、2020年など。
《Dead everyday life》2020

《許されたい》2020

桺谷悠花 Yuka Yanagitani
1999年奈良生まれ。数かぎりない争いの歴史の中で、その時代の人々の行動を現代の倫理的基準に照らす作品を作り、鑑賞者に過去の人々との対話を促す。主な展覧会に「MULTIPLAY」光明寺會舘、広島、2020年や、「Texas and Hiroshima small Works Exhibition」TCU small gallery、テキサス、アメリカ(巡回:広島芸術センター、広島)、2019年など。
山下栞 Shiori Yamashita
1997年大阪生まれ。美術教育現場における当事者として、美術を教科とする根拠や獲得する資質能力の設定、題材や教材などの基礎研究が不十分であることなどに着目し、それらを作品として可視化することを試る。主な展覧会に個展「Overture」横川創苑、広島、2018年や、「DOT」ギャラリーブラック、広島、2019年など。
《産業廃棄物》2019
関連イベント
・講演会
「それは愛ではない 暴力です」
講師:荒木夏実(キュレーター/東京藝術大学准教授)
リテラシーがないがゆえに起こってしまうさまざまな暴力について、加害被害を超えてメカニズムや社会的価値観の
刷り込みなどの観点から考えたいと思います。
ハラスメントの予防は女性だけでなく男性の幸せと安心につながります。タブーではなく、積極的にオープンに話しあうことが改善につながると思っています。
会場:広島市立大学 講堂小ホール
広島県広島市安佐南区大塚東3丁目4-1
日時:11月12日 14:40~16:10
(開場14:10)
どなたでもご参加可(定員60名)
事前申込不要 定員になり次第締切
[荒木夏実 プロフィール]
東京藝術大学准教授。キュレーター、美術評論家、慶應義塾大学講師。慶応義塾大学文学部卒業、英国レスター大学ミュージアム・スタディーズ修了。三鷹市芸術文化振興財団(1994-2002)と森美術館(2003-2018)でキュレーターとして展覧会および教育プログラムの企画を行った後2018年より現職。「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」(2014)で第26回倫雅美術奨励賞、第10回西洋美術振興財団学術賞受賞。現代美術と社会との関係に注目し、アートをわかりやすく紹介する活動を展開している。東京藝術大学美術館陳列館にてベテランから学生まで女性11人のアーティストによる展覧会「彼女たちは歌う」(2016年8月18日〜9月6日)を開催、話題を呼んだ。
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・シンポジウム
「カナリアのさえずり」
(学内限定イベント)
会場:広島市立大学 講堂小ホール
日時:11月13日 18:00~22:00
(開場17:30)
※大学関係者限定イベント
【新型コロナウイルス 感染拡大防止のためのお願い】
マスクの着用と咳エチケットをお願いします。
人との距離を十分にとって、会話を控えてください。
壁、台座、作品に触らないでください。
入場制限をする場合がございます。
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[岩崎貴宏(企画代表) プロフィール]
1975年広島生まれ。広島市立大学芸術学研究科博士課程修了。エジンバラ・カレッジ・オブ・アート大学院修了。2015年、ニューヨークのアジアソサイエティにて個展、同年、黒部市美術館と小山市立車屋美術館で個展を開催。第10回リヨン・ビエンナーレ(2009年)、ヨコハマトリエンナーレ(2011年)、あいちトリエンナーレ(2019年)などの国際展、「六本木クロッシング2007 未来への脈動」(森美術館、東京、2007年)、「日産アートアワード2015」(BankART Studio NYK、横浜、2015年)などのグループ展への参加多数。2017年には、第57回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館代表に選出され、個展「逆さにすれば、森」(2017年)を開催。


基町ショッピングセンター 448
広島市立大学芸術学部 工房棟5F 現代表現研究室
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